失ってから今になる

第13回500m美術館賞 グランプリ受賞作品

【制作日】2026月1月
【サイズ】H2000 × W12000 × D700 (mm)
【素材】氷、砂、冷凍庫、トレー、写真

500m美術館の細長い空間特性を起点に、本作は連続する写真を壁面に沿って横一列に展開し、歩行によってのみ成立する体験として構成されている。鑑賞者は立ち止まることなく前進し、身体の移動そのものが時間の進行として空間に刻まれていく。視界を横切る写真群は通過のたびに過去へと押しやられ、鑑賞者の背後へ沈み込んでいく。

展示は対照的な二つの場から成る。一方には電源の入った冷凍庫が置かれ、氷に直接印刷された「氷写真」が保存されている。支持体そのものが時間によって変質し、いずれ消失するこの写真は、保存の装置が同時に劣化と喪失を生むという、写真メディアの内在的な矛盾を可視化する。もう一方には電源の抜かれた冷凍庫があり、砂と銀色の空のトレーだけが静かに残されている。像が失われた後、鏡面となったトレーは鑑賞者自身と周囲の光景を映し込み、消えた写真の代わりに「今」を立ち上がらせる。砂は、その場に確かに時間が通過したことだけを物質的に示す痕跡である。

写真は本来、記録と保存を志向するメディアである。しかし本作は、消失を前提とすることで、完成した瞬間ではなく失われていく過程そのものを作品の中心に据える。歩行によって積み重なる過去、氷の溶解によって立ち上がる現在、そして鏡面に映る自分自身。それらが交差する空間の中で、「失ってから今になる」という逆説的な時間感覚を体験として提示する。

大通駅側展示

バスセンター駅側展示

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